神戸地方裁判所尼崎支部 平成8年(ワ)1063号 判決 1997年3月25日
主文
一 神戸地方裁判所尼崎支部平成八年(リ)第二三二号配当等手続事件について同裁判所が作成した配当表のうち、順位2被告の配当金欄の被告への配当額六億三三六〇万円とあるのを一億九二七五万五三三四円に、順位3原告の配当金欄の五万一三四四円とあるのを、四億四〇八九万六〇一〇円とそれぞれ変更する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
神戸地方裁判所尼崎支部平成八年(リ)第二三二号配当事件について同裁判所が作成した配当表の、被告に対する配当額を取り消し、原告の債権額につき配当すると変更する。
第二 事案の概要
訴外兵庫県津名郡東浦町(以下、「売主」という)を売主とし、訴外株式会社ジェーアールホールズ近畿(以下、「買主」という)を買主として、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)につき、昭和六二年六月二九日、買戻特約付の売買契約(売買代金六億三三六〇万円)がなされ、別紙登記目録記載の各登記がなされた。被告は平成元年七月二〇日、本件土地につき、極度額を一八億円とする根抵当権の設定を受け同日受付でその登記を経由し、その後手形貸付を行い少なくとも六億三三六〇万円の債権を有するものであるが、平成四年三月二日、売主から買主に対し右売買契約について買戻権行使の意思表示が有効になされた(別訴において既に確定)が、買戻代金六億三三六〇万円につき差押が競合していたところから、売主は右買戻代金を供託のうえ執行裁判所である神戸地方裁判所尼崎支部に事情届を提出したため、平成八年(リ)第二三二号配当等手続事件として配当手続が行われるところとなった。
執行裁判所は、被告が既に右根抵当権にもとづき物上代位として右買戻代金に債権差押命令を得ていたことから、被告が原告に優先して弁済を受ける権利があるとして配当表を作成したのであるが、これに対し原告は右根抵当権は右売買契約が買戻権の行使の意思表示により遡及的に消滅しているので、根抵当権としての効力がないのであるから、物上代位は生じえないのであり、右配当表の、被告への配当金額全額につきその取り消し及び原告の債権額に応じた変更を求めた事案である。
一 争いのない事実及び容易に認定できる事実
1 平成四年三月二日売主から買主に対し右売買契約について買戻権行使の意思表示が有効になされたので、売主は買主に対し、買戻代金六億三三六〇万円の支払義務を負っていたところ右買戻代金につき別紙仮差押え命令及び差押え命令の表示記載の差押などが競合していたところから、平成八年九月一八日、売主は右買戻代金を供託のうえ執行裁判所である神戸地方裁判所尼崎支部に、事情届を提出受理され、平成八年(リ)第二三二号配当等手続事件として配当手続が行われるところとなった。
2 被告は、右売買契約の買戻特約の登記がなされた後である平成元年七月二〇日、本件土地につき、極度額を一八億円とする根抵当権の設定を受け同日受付でその登記を経由し、その後手形貸付を行い少なくとも六億三三六〇万円の債権を有するものであるが、神戸地方裁判所尼崎支部は、平成八年四月二三日、被告の申立てにより右根抵当権(物上代位)に基づき右買戻代金につき債権差押命令を発した。
3 平成八年一一月二一日午前一一時、右執行裁判所は、右配当等手続事件の配当期日において、別紙配当表を作成したが、訴外松村敏雄こと沈基弼、有限会社ショーダイ産業及び原告はいずれも、被告に対する配当金全額につき異議の申出を行い、原告は右期日から一週間以内に神戸地方裁判所尼崎支部に配当異議の訴えを提起したが、他の債権者はいずれも訴えを提起しなかった。
二 争点
買戻特約付売買契約において、その買戻特約の登記後に設定された根抵当権は、右買戻特約付売買契約が買戻特約により有効に買戻された場合、その根抵当権の効力(物上代位)により買戻代金につき、その配当事件において優先して配当を受けることができるか。
第三 争点に対する判断
一 買戻特約についての登記がなされた買戻特約付売買契約において、その買戻が有効になされた以上、その売買契約は遡及的に効力を失い、買戻特約の登記がなされた後に設定された根抵当権はこれにより消滅し、買戻特約の登記の対抗力に基づきその根抵当権も遡及的に効力を失うものと解するべきであるから、本件根抵当権も遡及的に消滅し存在していないことになり、その買戻代金債権に対する物上代位は生じえないところである。
二 そうすると、本件配当手続においてその配当表に、被告の根抵当権による物上代位に基づき、被告に対する配当額を六億三三六〇万円としたことは誤りということになるから、共益費用として他の債権者の利益となった手続費用についての被告への配当金を除き、配当表における被告への被告の債権に基づく配当金(六億三三六〇万円)を変更し、原告の債権額(四億四〇八九万六〇一〇円)に基づき原告への配当金を算定すべきであるので、配当表のうち、順位2被告の配当金欄の被告への配当額六億三三六〇万円とあるのを一億九二七五万五三三四円に、順位3原告の配当金欄の五万一三四四円とあるのを、四億四〇八九万六〇一〇円とそれぞれ変更するのが相当というべきである。
第四 結論
よって、原告の請求は右の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
<省略>
(別紙)
物件目録
所在 津名郡東浦町久留麻字田尻
地番 二九番一
地目 雑種地
地積 一三九六五平方メートル
登記目録
一 所有権移転
神戸地方法務局津名出張所昭和六二年六月三〇日受付第五三九九号
原因 昭和六二年六月二九日売買
所有者 被告株式会社ジェーアールホームズ近畿
二 買戻特約
神戸地方法務局津名出張所昭和六二年六月三〇日受付第五三九九号
原因 昭和六二年六月二九日特約
売買代金 六億三三六〇万円
契約費用 なし
期間 五年
買戻権者 原告
(別紙)
仮差押え命令及び差押え命令の表示
<省略>